ぼーっとしていることが多くて時々悲しそうに俯く。
(また、だ)
金色髪の毛の男の人、デリ雄さんのますたーさんとお話をして、さようならをして、ますたーは“いつも”の顔になる。
デリ雄さんのますたーさんはいなくなっているのに、ますたーは広い背中をじっと見つめたまま動かない。
「ますたー」
「………」
「ますたーっ」
「あ……、ごめんね、学天」
どうしたの、ときれいな闇の色をした瞳が僕を映す。
「早く行かないとお風呂屋さんが閉まっちゃいます!」
「そうだね」
ますたーの肩に乗っている僕がシャツの襟を引っ張るとようやくますたーは歩き出す。
ちらりと横顔を見ると、元気なますたーの顔とはとても違う。
(ますたー……)
僕の胸がずきりと痛む。とても、悲しくて。
優しくて、甘くていい匂いがして、ふわふわしている大好きなますたー。
柔らかくてハチミツとろとろのホットケーキや口の中が溶けちゃいそうなケーキをにこにこ笑いながら作ってくれていた、ますたー。
でも、近頃はケーキも作ってくれないしにこにこ笑ってくれない。
(どうしてそんなに苦しそうなんですか…?)
笑ってくれるけれど、無理やり頑張っているのが僕には分かる。
「……ますたー…元気ですか……?」
「え?元気だよ。変な学天」
恐る恐る尋ねる質問にますたーは僕の頭を指先で撫でて答えてくれるけど…。
(……ますたーの、うそつき)
ぜんぜん元気なんかじゃないくせに。
僕が気付かないと思っているんだ。
ますたーのことがこんなにだいすきな僕なのに。
ずーっと、ずーっとますたーのことを見ているのに。
(こうなったら、しらべる!)
どうしてますたーが悲しそうなのか、どうしたら前みたいにきれいに笑ってくれるますたーに戻るのか。
(ますたーのお悩みを解決して、ますたーに元気になってもらうんだっ)
僕には広いお部屋にますたーの寝ている音が響く。
(……だいじょうぶ、かな)
ますたーが僕のために作ってくれた小さな布団から起き上がって、ますたーの顔を覗き込む。
起きる様子は無いけれど、音をたてないようにパソコンが置いてある机によじ登る。
「ん、しょ……っ」
(あと、もうちょっと…っ!)
どうにかパソコンに辿り着いて、ふうと小さく呼吸。
ますたーが起きていないかを机の上から見つめて、よしと確認。
すぅすぅとますたーはぐっすり眠っている。キーボードを踏まないようにんーっと腕を伸ばして電源のボタンをゆっくりと押す。
あんまり音をたてないでね、とディスプレイを撫でてパソコンにお願いする。
(それから、……ん、っと)
ズボンのお尻ポケットから引っ張り出すのはパソコンに繋ぐケーブル。
僕たちぼーかろいどはパソコンにケーブルを繋ぐとインターネットが出来て、キーボードを打たなくても検索が出来る。
ますたーから言葉で教えてもらえればディスプレイに表示させられる。
「………」
(何で検索すればいいかな……。悩み、とか、溜め息とか、)
頭の中で文字を思い浮かべると、ディスプレイに検索の結果が浮かび上がる。
ケーブルを延ばして、ディスプレイに近付く。
一番上にあるサイトを開くと、悩みを相談するホームページみたい。
「……“こい”?」
(GAKUTEN HEART MARKET/to be continue……)