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お礼SSS(帝人視点)です。






時々、無償に、この人に触れたくなる。

目の前を歩いている広い背中にぎゅうっと抱きついて、言ってしまいたくなる。

(好きです、って言えたら……)

ぎゅっと目蓋を閉じて、心のドアも閉じる。

せっかく一緒にいられるのに、好きなんて言ってしまったら、静雄さんと一緒にいられなくなる。

後ろに置いてもらえなく、なる。

気持ちが溢れちゃいそう、というのは今の僕の状態を言うんだと思う。

ぎりぎりの縁の部分で、溢れる水を抑えている。

(しずお、さん……)

強く縋り付いたら、優しい静雄さんは振り向いてくれるかな。

同情を抱いて、僕の体を抱き締めてくれるかな。

(だめだ…っ)

静雄さんに見つからないように、小さく首を振る。

そんなことを考えるなんて、……最悪だ。

本当はとても優しい、その性格を利用しようとしている自分が嫌いだ。

(一生、静雄さんに気持ちが通じることなんて、ない)

最低なことを考える、その上男で、可愛いわけでも綺麗なわけでもない。

「……っ」

自分で自分自身を考えて、悲しくなる。

きゅっと唇を噛み締めて、地面に視線を落としているから気付かなかった。

「ぁっ、」

「どうした、竜ヶ峰?」

「し、静雄さん…っ」

広い背中に顔がぶつかったのは、静雄さんが急に立ち止まっていたから。

揺れた僕の体を長い腕が支えてくれる。

「どっか痛ぇのか?」

「え……」

「随分ぼんやりしてるみてぇだけど、どうした」
「……ぁ、」

さっきまで沈んでいた気持ちが、ふわりと浮かび上がる。

単純だなって自分でも思うけれど、静雄さんに心配してもらえるのが、嬉しい。

きちんと見てもらえていると分かるだけで、幸せになれる。

(……僕は、これでいいんだ)

「大丈夫です、ありがとうございます」

「そうか」

「はいっ」

静雄さんが広い背中を僕に向けて、またゆっくりと歩き出す。

(……静雄さん、好きです)

心の中に、ゆっくりと言葉を広げた。



(好き/END)