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お礼SSS(静雄視点)です。
とりあえず仕事が一つ片付いたところで、トムさんが腕にしている高そうな時計に視線を落とした。
「お、もう昼だな。静雄、どっか店入るか」
「すみません、今日は……」
言葉を濁して腕にある水色の紙袋を持ち上げると、トムさんがニヤリと楽しそうに笑う。
「ほー愛妻弁当ってやつかぁ、静雄?」
「まぁ」
「おー、おー、静雄に惚気られる日が来るとはな!長生きするもんだぜ」
トムさんには帝人と付き合うようになって、きちんと伝えた。
最初は大丈夫かと仕切りに聞かれたが、心配しているのは俺じゃなく帝人だったらしい。
愛しているから問題ないですと答えると、トムさんは珍しく顔を赤くして何も言わなくなった。
帝人と付き合っていることに疚しい気持ちは一切ない。
誰彼構わずに言うことではないが、トムさんは信頼出来る人だ。
心配はしていたが、気持ち悪がられたり避けられたりはしなかった。
最近では俺がいい方向に変わったと、帝人に感謝しているようだ。
「じゃあ俺はテキトーに店入って食ってるから。ここに三十分後な」
「はい。分かりました」
トムさんと別れて、足は近くにある公園に向かう。
右手に揺れる袋にはトムさんが言った通り、愛妻弁当というか、帝人が作ってくれた弁当が入っている。
週に一回、自分のを作るついでだからと、作ってくれている。
帝人の料理は美味いし、朝学校に行く前にあいつに会えるのはいい。
面倒をかけるんじゃねぇかと言ったが、帝人も静雄さんに会えるからと可愛く笑ってくれた。
「いい天気だな」
サングラスにぶつかって反射するのが分かるぐらいの日差しが降り注いでいる。
まるで地球までも帝人の作ってくれた弁当を喜んでくれているように、雲ひとつねぇいい天気だ。
公園に着くと、昼時でいい天気だからか弁当を食っている奴で賑わっている。
空いていたベンチに座って、紙袋から弁当箱を取り出す。
丁寧な帝人らしい、布で綺麗に弁当箱が包まれている。
空になった弁当箱を渡すために夕方にも帝人に会える、至れり尽くせりの日だ。
(今日は……)
蓋を開ける瞬間、緊張するのはまるで遠足の時のガキのようで苦笑しちまう。
特に好き嫌いはねぇから食べられないものはないのに、だ。
「相変わらず美味そうだ」
青い蓋を持ち上げると、いい匂いで腹の中の肉が萎むような気がする。
早く美味そうなそれを寄越せと急かしてくる。
鶏肉と人参や椎茸が見える炊き込みご飯に、味が染込んでいる金平牛蒡、胡麻の匂いが腹の空き具合を増殖させる肉団子。
箸を入れたら簡単に割れる里芋と人参の煮物も美味い。
どれも美味いが俺が一番気に入ってるのは、醤油味のたまご焼きだ。
自分は甘いのが好きなくせに、俺のために帝人がわざわざ作ってくれている醤油味。
悪いとは思うけど、これが一番だ。
帝人が俺のために特別っていうのが、な。
「………頂きます」
手のひらを合わせて、同じ弁当を食っている帝人に感謝の気持ちを込めた。
(愛妻弁当/END)