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お礼SSS(帝人視点)です。






「くしゅっ」

寒くはないけれど、自然にくしゃみが出ることは普通の人にとって珍しい事じゃない。

誰かに噂でもされているのかなぁとぼんやり思っていると、静雄さんがぴたりと足を止めた。

「静雄さん?」

首を傾げる僕の顔を覗き込むように、静雄さんが背を屈める。

「風邪でもひいたか」

「え?違いますよ、ただのくしゃみです」

首を左右に揺らして否定している間に、静雄さんは珍しくバーテン服の上に着ていたジャケットを脱ぎ出す。

「これ着ておけ」

腕の中にばさりと落ちてきたのは、まだ静雄さんの体温が残っている大きなジャケットだった。

「ええっ、いいですよっ!」

「いいから着ろ」

「でも、本当に風邪じゃないんですってば!」

「………帝人。着ろ」

大丈夫と言い張っても、静雄さんはジャケットを受け取ろうとしてくれない。

こういうときの静雄さんに反論しても聞いてくれないのは分かっている。

僕にある選択は一つだけだ。

(仕方がないなぁ……)

それに、本当に風邪じゃないけれど、静雄さんに心配してもらえるのは、正直言うと嬉しい。

大切にしてもらっているんだなぁって思う。

「……はい。ありがとう、ございます」

こくりと頷くと、静雄さんは視線を柔らかくした。

綺麗で、格好いい眼差しに見つめられていると、顔が熱くなっていくのを感じる。

(うう……どきどき、する)

指先まで隠れる大きなジャケットからは静雄さんがいつも吸っている煙草と柑橘系の香水の匂いがする。

それは、長い腕で抱き締められた時に包まれるのと同じで、思うともっと顔の熱が上がっていくような気がする。

「帝人、顔が赤いぞ。やっぱり風邪ひいてるんだろう」

「あ、え、えっと……」

静雄さんを想って赤くなっているなんて恥ずかしくて、勿論言えなくて。

俯いて、ちょっとだけ、と小さな嘘を呟くのが精一杯だった。



(くしゃみ/END)