拍手ありがとうございました!
お礼SSS(静雄視点)です。






「うわ…っ、変な魚!ね、静雄さん」

「……ああ」

自分が住んでいた田舎にはなかったんです。

いつも可愛いがいつも以上に可愛く帝人が行きたいと言ったのが、サンシャインにある水族館だった。

池袋には随分長く住んでいるが、初めて来た。

正確に言うと、来たくなかった、が正しい。

帝人が可愛く可愛く可愛くなかったら、道路標識でぶん殴って半殺しにしていた。

(うぜぇ……)

無数の視線が俺達に向いている。

むかつく反応が嫌でバーテン服を着てこなかったのに、結局予想通りだ。

(服を着なくても、一緒かよ…ッ)

普通に、静かに生きていたいだけなのに、可愛い帝人とたまのデートを楽しみたいだけなのに。

横を通り過ぎようとすれば、ヒッ!と悲鳴をあげて逃げ出される。

苛々が募り、帝人の笑顔で癒され、また苛々が募る……それを繰り返していく内に、館内からほとんど客がいなくなっていた。

(まぁ、これはこれでいいか)

苛々を生み出す視線は無くなったし、ガラスの水槽を黒目を丸くして一身に見ている帝人はこれ以上ないぐらい可愛い。

水槽から顔を離した帝人が小さな頭を左右に揺らしてきょろきょろし始める。

「どうした」

「水族館ってこんなに空いているもんなんですかね」

「……まぁ東京だと珍しいもんじゃねぇしな」

「そう、なんですか?」

「品川とかにもあるぜ」

「へー」

俺に脅えて逃げちまったから客がいない、なんて言わない。

「でも、今日はラッキーだなぁ」

何かの映画に出ていたオレンジ色の魚を見ながら、呟くように帝人が言う。

「あ?」

「水族館は空いているし、……しずおさんの、私服姿、見られたし」

「帝人……」

私服と言っても白いシャツに、黒いスラックス。

いつもとほぼ変わらないのに、帝人はラッキーだと言ってくれる。

とっくに魚が置き家の中に隠れちまっているのにまだ水槽を見ながら。

(可愛い可愛い、ああ……ッ、くそ…ッかわいい…!!)

早口で言う唇も、照れて赤くなっている頬も。

「え、えっと、し、静雄さん、あっち見たいです」

つん、と握ったら折れそうな細い指が俺のシャツを引く。

恥ずかしそうな表情に、遠慮がちな仕草。

「おう」

もう慣れた帝人に触る時の穏やかな力で帝人の肩をゆるりと抱いて、たまにはこういうのもいいかもしれねぇなと思った。



(水族館/END)