拍手ありがとうございました!
お礼SSS(まいふぇりばりっとたっち)です。
「って……、」
「静雄さん?」
「いや、爪が折れちまっただけだ」
苛立ちかけた声に振り向くと、僕が知っている限り世界で一番綺麗な顔が苦笑いに変わる。
宝石のような琥珀色の視線を追うと、親指の爪が歪な形に変わっている。
「爪噛む癖がついちまってるからやっちまうんだよな」
「煙草吸ってないと噛んじゃうんでしたっけ?」
「あー…ぼーっとしてると、ついな」
静雄さんが気まずそうに言うのは、僕が煙草を出来る限り少なくしてほしいとお願いしているから。
そのために、静雄さんの好きなキャンディをポケットに入れておくんだ。
「気が緩んじまうと噛んじまうんだよ」
「そう、ですか」
今の静雄さんの言葉は、嬉しい。
僕のアパートで、僕と一緒にいると、気が緩んでくれるんだ。
猛獣のような人のテリトリーにそれだけ侵入を許してもらえたのが、幸せ。
「じゃあ、噛まないように僕が爪切ってあげます」
「帝人?」
「はい、手を貸してください」
「自分でやるから……」
「いいから」
大きな手のひら、指先を絡めて、強制的に自分の前に差し出す。
(おおきくて、きれいな手)
商店街の抽選でもらった救急セットの中に入っていた爪きりで、ほんの少し伸びた白い爪を落としていく。
ぱちん、ぱちん。
歪んだ親指もこれ以上傷つけないようにと気を払って、刃を差し込む。
(いらないって言ったのに、結局許してくれた)
爪を切るのも許してくれたのが、嬉しい。
弱い部分を少しずつ曝け出してくれる。
(もっと、もっと、静雄さんのために出来ることが増えれば、いいな)
(つめきり/おわり)