ごつんと鈍い音をたてて、肘が金色の頭にぶつかる。

誤って、ではなく、わざとぶつけたんだ。

でも金色の頭の持ち主はびくともしない。

僕の肘だけがじんじんと痛くなってくる。

分かっていたけれど、ちょっと悔しくてもう一回軽く肘をあててみたけど、……やっぱり痛い。

「……静雄さん」

「んー?」

「んー、じゃなくて、……いい加減どいてください」

「嫌だな」

「…………」

この押し問答、静雄さんが僕の家に来るようになってから何回やったことか。

はぁ…、と心の中で小さく溜息。

数学Tの教科書とノートが広がるテーブルに向き合っている僕の膝の上に広がっている金色と少しの重み。

作られた金色なのに、蛍光灯に当たって輝く色はとても綺麗。

指を差し入れれば、意外と柔らかくてさらりと指の間を抜けていく。

肘をぶつけたところを指先で撫でる様に触れると、僕の膝の上で王様になっている静雄さんが猫のように顔を緩ませる。

「痛くなかったですか?」

「痛くなかったけど……そのまま撫でてくれよ」

「痛くないなら、やめます」

静雄さんの髪の毛から指を抜くと、優しい力で捕まってきゅっと握られる。

「……宿題が出来ないんですけど」

「…………」

膝の上にある小さな頭が少しだけ動くと、光の加減で琥珀色にも見える瞳が真っ直ぐと僕を見つめる。

外にいる時、ほとんどサングラスに隠れている瞳がこんなに綺麗なのを知っているのは、僕だけだったらいいのにな。

「静雄さん」

「もう少し、さっきのしてくれよ」

もう一度、心の中で溜息。

綺麗な瞳に、甘えるような言葉、僕が逆らえないのをずるい大人のこの人は知っているんだ。

そして、僕も仕方がないと思っている。

(だって静雄さんがこういうふうになるのは、……きっと、何かがあったから)

時々こうなる、甘えん坊な静雄さん。

本当は優しいこの人が、誰かを傷つけてしまったり、何かを壊してしまったり、後悔していると、こうなるみたいだ。

いつもは強くて優しくて、僕を守ってくれる大人の男の人が見せてくれる、弱い部分だと僕は思っている。

宿題が出来ないのは困るけれど、頼ってもらえるのは、嬉しい。

僕が静雄さんのために出来ることは少ないから。






だから、押し問答の結末はいつも一緒。






「……仕方がない、なぁ」

シャーペンをこつり、とテーブルに置くのは、宿題を諦める合図。

「少しだけ、ですからね」

「おう」

金色の中に指を戻して、皮膚に優しく触る。

腰を折って額に唇を押し当てると、膝の上にある静雄さんの顔が嬉しそうに緩んだ。






(おべんきょ、しましょ/END)