静雄さんの綺麗でキラキラしている顔が近付いてくると、ああキスするんだなぁって分かるようになったのは、最近。

ゆっくりと目蓋を下ろして、少しだけかさついた温かい唇が触れる永遠のような瞬間のような時間を待つ。

「帝人……」

僕の小さな唇に重なる前に吐息が零れた、擦れた低い声が名前を呼ぶ。

キスをするときに目蓋を閉じるのは、体中に鳴り響くどきどきの音を抑えるためなんじゃないかって思う。苦しいぐらい、心臓が五月蝿い。

うれしい、うれしい、って。

「ん……」

静雄さんが触る隙間につい洩れる声が恥ずかしい。

でも静雄さんは、いいからと抱き締めてくれる。

『お前の声は可愛いからもっと聞かせろ』

王様のような言葉なのに、抱き締めてくれる腕は限りなく優しくて、宝物を包んでいる真綿のよう。

じゃあ僕は宝物?と1人で想像して、1人でにやついちゃったのは静雄さんには内緒だ。

「し、…お、さ…」

小さなキスが続いて、深いキスになっていく。

変わるキスはちゅっ、と高い音が合図。

僕は呼吸をしながら名前を呼んで、きゅっと静雄さんのシャツを握る。

そうすると、静雄さんが嬉しそうに笑ってくれるから僕は少しだけ目蓋を開けてすぐに閉じる。

それから、大きく深呼吸。鼻の中に息を隠す。

「帝人、みかど、みか……」

最後まで呼びおわる前に静雄さんの唇が触れる。

ううん、触れるというより食べられる。

「ふ、ぅ、」

唇ごと、小さなキスの連続で潤っている静雄さんが食べてしまう。

「ンゥ…ッ」

声と一緒に出来た空間から長い舌がにゅるりと僕の口内に入ってくる。

「ン、ッ、ぅく、」

シャツを掴む指先に力を込めて、息苦しさに耐える。深いキスで苦しいのは、ほんの一瞬。

僕の口の中は静雄さんの舌を迎え入れるように弛んでいくのが分かる。

静雄さんが舌先で器用に僕の弱いところを責めてくるから。

歯の中を突かれれば、肉の壁を舐められたり、静雄さんが僕の口の中で優しく暴れる。

「ふ、ぁ…ッ、」

歯と肉の隙間に舌先をこじいれられると体が勝手に震える。

奥に逃げている僕の舌も絡みとられて、唾液が口の端から溢れて流れていく。

「ん、く、……ぅ、ぁっ、」

濡れた唇同士が離れて、ちゅぷりと濡れた音がなる。静雄さんは僕よりも、僕の隠した息の限界を知っている。

「は、ふ…、はふ、」

静雄さんが僕の口端から零れた流れる透明なものを舌先で追う。

唇、頬、顎まで濡れた感覚に力がゆっくりと体から抜けて、ゆれる。

倒れないのは静雄さんが長い腕で僕を抱き締めて、大きな手のひらで背中を支えてくれているから。

ほんの少しだけ勇気を出して、こつりと広い胸に顔を隠すように額を押しあてる。

こんなことが家族にでもない、しかも大人な男の人に出来るのは、静雄さんが特別だから。

(……すき、だなぁ)

すりっと甘えるように額を頭を動かすと、隠しきれない耳元に呼吸がふわりとぶつかる。

「……可愛い」

男の人に可愛いと言われているのに、死んじゃうじゃないかっていうぐらい嬉しい。

静雄さんにとって、本心からの気持ちと僕は教えてもらって知っている。

好きな人に、好きと思って大切にしてもらえる嬉しさも、キスも、全部静雄さんが教えてくれた。

「…ずお、さ、」

「ん…?」

少しでも僕も気持ちを伝えたい。

いつも恥ずかしくてただ抱きついて終わりだけど、今すごく想う。

「帝人?」

屈むように優しく見下ろす視線の先に背伸びをして、まだ乾いていない唇を押しあてた。

それは、僕の精一杯のキス。





(キス/END)