「悪い、帝人」
抜いていると教えてもらった綺麗な金色が目の前できらりと眩しく揺れる。
いつもは視線よりも上で揺れている筈のそれが、視線の下にある。
どうしてそうなっているのか、静雄さんの優しくて低い声教えてもらったから、分かる。
けれど、すごく、困る。
「し、しずおさん!頭上げてください!!」
あわあわしながら、両手で広い肩に触れても、静雄さんは動かない。
「……教えてくれねぇか…、お前が欲しいもの」
「わ、わかりました、から……ッ」
溜息と一緒に頷くと、下がっていた頭が勢いよく起き上がる。
いつも穏やかな大人の視線が、玩具を貰った子供のように見える。
大人のこのひとを可愛いと思うのは、こういう時なんだけど、今は、やっぱり困る。
「本当か!?」
「は、はい」
頷いたものの、実は欲しいものなんて、すぐには考えられない。
(どうしよ……)
静雄さんが僕に欲しいものを聞いてきたのは、今週の日曜日に僕の誕生日があるから。
優しい大人のこの人は、ずっと、ずっと、考えていたようで。
それでも答えが見つからなかったようで、僕に直接聞くことにしたらしい。
好きで、尊敬している人に、祝ってもらえるのは凄く嬉しい。
静雄さんがずっと僕のことを考えてくれていただけで、充分なんだけれど。
それだけの事で、僕はすごく幸せになっているのに。
(そう言っても納得してくれなさそう)
目の前の静雄さんの格好いい顔には、早く、早く、と文字が書いてあるようで。
(ほしいもの、ほしい、もの……)
頭の中の引き出しをひっくりがえして考えるけれど、こういう時に限って思いつかない。
欲しかったものなら、すぐに思い出せるのに。
(……しずお、さん)
初めて出会って、この人を好きになった時から、ずっと、ずっと、一緒にいることを望んだ人。
凄く怖い人だと言われているけれど、強くて、本当は優しい、綺麗で格好いい静雄さんは、実は影で人気がある。
恋人、になる前、一緒に歩いていると綺麗な女の人に度々声をかけられた。
だから、静雄さんと一緒にいたいなと思っても、絶対に叶わないことだって思い込んでいた。
(静雄さんとこうやって一緒にいられることが、毎日誕生日プレゼントをもらっているようなの、に)
見た目よりも暖かい腕に抱きしめられて、広い胸の中に包み込まれて、大きな手で指を絡めるようにぎゅっと繋いでもらう。
奇跡、みたいだなぁって毎日毎時間毎分毎秒思う。
(これ以上望んだら、罰があたるよ)
「帝人」
「え、えっと、………」
もっと早いスピードで頭の中から心の中にある引き出しまで探すけれど、なかなか見つからない。
静雄さんの期待が篭っている眼差しに、必死に開けていた手が心の中の引き出しを開けたところでぴたりと止まる。
(……、ぁ)
しず、ちゃん―――――。
体中で響く、静雄さんを呼ぶ、ある人の声。
ある意味、静雄さんの”特別な人”。
僕が一番勝てないと、思う人。
静雄さんは、僕が隣にいてもその人を絶対に選ぶんだ――――どんな形にしろ。
一緒にいる時間の長さも勿論勝てないし、僕の知らない静雄さんも知っている。
仕方がないと頭で分かっているけれど、心の奥の奥の深いところで、羨ましいと思っているんだ。
「……物じゃなくても、いいですか」
一つ、唾を飲み込んで、言葉を外に出す。
もしかしたら、静雄さんは怒るかもしれない。
でも、今考えられる欲しいものは、本当にこれだけなんだ。
”これ”しか、いらない。
「よく分からねぇが、帝人が欲しいなら何でもいい」
「じゃあ、………―――――――――――――――――――――」
言葉を出し終えて恐る恐る見上げると、静雄さんの瞳が大きく見開いている。
(吃驚、してる)
揺れ動く表情を見逃さないように、じっと見つめていると、静雄さんは、はぁと溜息を吐いた。
やっぱり怒られるかな、とびくりと震えた肩を宥める様に大きな手が触れる。
「……そんなのが、誕生日プレゼントでいいのか」
「は、はいっ!」
呆れるような視線の中にも、困ったような笑み。
こくこくと人形のように振り続ける頭に、ぽん、ともう一つの大きな手のひらがのせられた。
「帝人は、欲がねぇな」
「………」
近付いてくる綺麗な顔を感じながら、ゆっくりと目蓋を下ろした。
優しい感覚を貰いながら、ううん、と心の中で首を横に揺らす。
(僕はすごく、欲張り、だよ)
「僕といる時はイザヤさんに会っても、喧嘩しないで、」
(形のないプレゼント/END/HAPPY BIRTHDAY!!MIKADO!!)