すぅすぅ、と胸の中から聞こえてくる寝息。
視線を下ろすと、呼吸と同じ穏やかな寝顔がある。
(可愛い)
音をたてないように開いた白い額に唇を押し当てる。
味なんてないはずなのに、こいつの額は甘い。
(額だけじゃねぇけど、な)
そんなことを口に出せば、小さな顔を真っ赤にして、恥ずかしそうに俯いて、拗ねちまうから言わないが。
帝人の性格のように真っ直ぐな黒髪に指を通せば、ん・・・と小さく声を漏らす。
赤ん坊のように動いている唇は、しずおさん、と呟いた気がして抱き締める腕の力を少しだけ強くする。
力の調節がはっきりとできるようになったのは柔らかくて、小さな帝人をこうやって抱き締めるようになってからだ。
傷つけないように、苦しめないように。
帝人の唇の動きが止まると、今度は体が動いて頬を胸にすり付けてくる。
「………ッ、」
ふにゃ、と音が聞こえてくるような、笑みが小さな顔に広がる。
(やべぇだろ………)
本当に、可愛い。
男だと分かっているのに、可愛くて仕方がねぇと思う。
帝人の顔を見ていると同時に沸き上がってくるのは、絶対の信頼への喜び。
今までこういう関係になってきた奴らは俺の力に怯えて、俺が好きだ好きだと言いながら、寝顔からも緊張しているのが伝わってきた。
抱き締めようとしても、体を震わせたり、一歩下がったり。
帝人も最初はあったが、今は俺の腕に安心すると言ってくれた。
『静雄さんに抱き締められると、うれしい、です』
(嬉しいのは、俺の方だ)
初めて他人から、しかも好いている奴から貰う無償の愛情と信頼。
この小さな体で受け止めてくれていることに俺がどれだけ感謝しているか、帝人は知らない。
離れることに怯えているのは俺のほうだということも。
「ありがとうな、帝人」
(一生離してやれねぇけど、許してくれな)
(magnet/END)