ずっと冷たいところにいると思っていたのに。


(あった、か、い…?)


毛がふわふわになっている感覚はごしゅじんさまに体を洗って、大嫌いなドライヤーを我慢した後のご褒美。


『帝人はいい子だね。云う事が聞ける子は好きだよ』


(ごしゅじん、さま……)


僕は今ごしゅじんさまに捨てられて、さむいさむいところにいるはずなのに、なんで…?


(もしかして、ぼく、しんじゃっ、た…)


正臣が教えてくれた、天国なのかもしれない。


恐る恐る、ゆっくりと目蓋を持ち上げると、僕を覗き見ている四つの目。


驚きすぎてひっくり返りそうになる僕をごしゅじんさまより大きな手が止めた。


「目が覚めたみたいだよ、兄貴」


「ああ」


(に、にんげん…!?どうして…っ)


僕は見知らぬ場所にいて、見知らぬ人間達に見つめられている。


ちょっとだけ起き上がると、視界に広がるのは本屋に知らない場所。


ごしゅじんさまのおうちでもない。


(ここ、どこ……っ?)


ごしゅじんさまが敷いてくれたタオルと違う、タオルに僕の体は包まれている。


目を精一杯丸くして見上げると、僕の上にいる二人の人間。


ごしゅじんさまと同じぐらいきれいな人と、金色がぴかぴかしている人。


僕をじっと見つめたまま、会話が続く。


「濡れているこの子が可愛そうで連れてきちゃったんだ」


「……おう」


「仕方がないね。病院では何て?」


「ただの風邪みてぇだ。薬も飲ませてくれたみてぇだからあとは暖かくしとけって言われた」


金色の人の伸びてくる指。


転ばないように支えてくれていた手のひらは優しかったのに。


知っていたのに、怖い。


ごしゅじんさまのように綺麗じゃない。


大きい、怖い、怖い。


自分を守るために、あーっと口を開く。


鋭いと知っている、小さな僕の歯でも。


だからごしゅじんさまは、噛んじゃ駄目だよ、とよく言っていた。


でも、今、この怖い大きな手から自分を守る方法は、これしか知らない。

(や、やだ…!!触らない、で……っ)


がりっと音がしたのと同時に、柔らかいものを噛んだ感覚が伝わってくる。


(か、噛んじゃった……っ)


舌に感じる、ちょっとすっぱいのは、血だ。


(ど、どうしよ……、うっ、)


怖かった、けれど、今はもっと怖い。


人間を噛んでしまった猫は、殺されてしまうんだ。


ごしゅじんさまが言っていたのを、ようやく思い出す。


タオルに顔を埋めて、たすけて、たすけて、ごしゅんじさま……っ、魔法の言葉のように何度も、何度も。


(ごしゅじ……さま…っ)


また、近付いてきた、大きな手。


殴られるかもしれない、放り捨てられるかもしれない。


(たすけ、て……っ)


とにかく体を小さく、小さく、丸めて、衝撃に耐えようとした。


「驚かせちまったか?……悪い」


そろっと、指先だけで僕の頭に、触れる。


とてもやさしい力で、吃驚した。


(なぐらない、の……?)





(つづく)