静雄の恋人は、頼りなく見えるかもしれないが、強くて、優しくて、可愛い子だ。
男の子に対する言葉には適していないかもしれないが、実際そうだから仕方がない。
え…、セルティに敵う可愛い人はいないよ……って、ちょっと黙っていろ、新羅。
色々と複雑な事情も抱えている子だが、きっと静雄が守ってくれると思う。
静雄はいい奴だ。
少し血の気が多く、喧嘩早いが、それは臨也がいなければいい話だ。
普通の時の静雄は穏やかで、物静かだ。
でも、私の前で楽しそうに笑うことはない。
皮肉めいた笑いや口元に笑みを浮かべることはあるが、心底嬉しそうな顔は見たことがなかった。
これは静雄が人を愛せる人じゃないから、と杏里は言っていた。
私と同じ、静雄さんは人が愛せないんです、と。
それは、違う。
『私』も、人を愛すことなんで出来ない、杏里と同じで自分が静雄と似ていると思っていた。
『私』は今、人を……あいしている。
……う、うるさい、話を途中で折るな。
あー、分かったからくっつくな。
新羅、肘を溝に打ち込むぞ。
……ああ、さっきの言葉は嘘じゃない、本当だから離れてくれ。
全く……、話が逸れた。
そうだ、静雄も今、人を愛している。
あの可愛い男の子と一緒に歩いている静雄を見た。
笑ってたよ、楽しそうに、嬉しそうに。
ただ一緒にいることだけが幸せなんだと、笑っていた。
お前もそんな静雄を見たことはないだろう、新羅。
見間違いじゃないよ、頬にキスもしていたしな。
ああ、静雄が、だ。
偽者じゃないと言っているだろう。
その後、照れたあの子に拳でぽかぽか叩かれていても静雄が怒らなかったよ。
え……静雄がおかしくなった。
おかしくなったんじゃなくて、あの子だけが特別なんだよ。
静雄は、もう大丈夫だ。
あの子がいるから。
だから、杏里にもきっと、愛せる人が現れるはずだ。
私はそう、信じている。
(二人への視線ver.セルティ/END)