「ねぇ、せんせい。ミサカは赤ちゃんが産めますか、ってミサカはミサカは真剣に尋ねてみる」
ミサカがそういうと、カエルのせんせいは、笑ったような、怒ったような、泣き出しそうな顔になった。
それから、すぐに怖い顔になる。
「産めなくはないよ」
ただし、とせんせいは言葉を続ける。
「君はあくまでクローンだ。"本体"と同じように作られ、同じような器官があっても、それは"本体”と同じように動かない。
無理やり動かすことが出来るが、そうすれば君の命が危なくなる。
いや、危ないとはっきりと言い切ったほうがいいね。
それから、”ミサカネットワーク”。君が子供を生むのは、きっと死と同じぐらい痛くて苦しい思いをするだろう。
それを味わうのは君だけじゃない、”みんな”だ。もしかしたら衝撃が強すぎて死んでしまうクローンもいるかもしれない。
あとは、……君の大切な人だね。あの子も、ミサカネットワークから演算能力を補っている状態だ。
君の出産時には演算能力が使えなくなるし、何かが起きてミサカネットワークが使えなくなれば彼は永遠に能力を失う。
なにより君にもしもが起きたら、ようやくここまで来られたのに、…彼は、また堕ちてしまう。
産まれてくる子供も、どんな子かは分からない。
学園都市第一位の能力者とクローンの子供なんて見たことがないからね。
あの子よりももっと強い力を持ってしまうことで、学園都市にまだこびり付いている闇に狙われるかもしれない。
それでも、君は産みたいかい?」
せんせいは、ミサカの首を横に振らせるために、たくさんお話をしたんだと思う。
でも、ミサカの首は真っ直ぐと上下に揺れる。
「ミサカは、あのひとに家族をあげたいの」
ミサカにたくさんをくれた、あのひと。
大きくなっても、ずっと傍にいるのを許してくれた、あの日から。
ミサカがあの人にあげられる一番のモノは、これしかないって思ったの。
「そのためなら、誰を苦しめてもいいと思ってしまうのってミサカはミサカは自分がずるくて卑怯なのを吐露してみる」
ネットワークを通じて”みんな”にはたくさんお願いしてたくさん謝った。
誰もミサカを責めたり、ミサカを止めたりはしなかった。
きっと、みんなは知っているのに。
ミサカの我が侭を許してくれた。
「ずるくて卑怯な子が、……こんなふうに泣いたりしないね」
溜め息と一緒に、ティッシュが目の前に差し出される。
「っうう…っ、ってミサカは、ミサカは……っっ、」
「よしよし。……君には、適わないね」
見上げると、せんせいは、少しだけ笑っていた。
「命を救うだけではなく、産みだすのも医者の仕事だよ」
カエルの先生は、ミサカの頭をぽん、ぽん、と撫でてくれる。
あの人とは違う触れ方だけど、優しい仕種に涙が止まっていく。
「少しずつ方法を見つけていって、必ず、あの子と君に家族が出来るようにしよう」
最初で最期の神様がくれた宝物