あなたが玄関の上にいて、ミサカが下にいる。

出かける人と見送る人がいつもと反対で、ちょっとおかしな感じ。

「じゃあ、行ってくるね」

「ああ」

高校の制服、紺色のセーラー服姿のミサカと、シャツとパンツなラフな格好のあなた。

ミサカの腕には大きめなボストンバッグ。

ミサカは今日から修学旅行に出かけるの。

二人だけで暮らし始めてから、けっこん、してから、ミサカから離れていくのは初めて。

この人がお仕事場のヨシカワの研究所に寝泊りをして帰ってこないのはたまぁにあるけれど。

そんな時、ミサカはほんのちょっとだけ淋しいけれど、ミサカは言わないの。

だって、この人が一生懸命お仕事をがんばっているのをミサカは知っているから。

ミサかは、ミサカはね、この人のいい奥さんになりたいの。

でも、この人が一人になるのは、不安。

すぐに無理をしたり無茶をしたり、ご飯を食べなかったり、食べたとしても缶コーヒーとかカップラーメンばっかり……。

「ほんとに、あなた一人で大丈夫…?」

見上げながら尋ねると、この人の綺麗で格好よくて素敵な顔がむーっとする。

そんな子供みたいなのもかわいいなあってミサカはミサカは思うけれど、もっと怒らせちゃうから言わないの。

「あのなァ俺はずっと一人で暮らしてたンだ。いいからとっとと行け、クソガキ」

「うん」

伸びてきた長い指がこつりとミサカの額を押すから、ミサカの体がふらふらぁっと揺れる。

「遅刻したら置いていかれンぞ」

「なんか、冷たいかもってミサカはミサカはほっぺたを膨らませてみたり」

「はァ?」

ミサカと離れ離れになるの、淋しくないのかな……。

ミサカは修学旅行楽しみだけど、あなたと離れるのはやっぱりちょっとだけ淋しいのに。

ピン!と思い浮かんだのは、ちょっとした、イタズラ心。

離れ離れになっちゃうのに淋しそうじゃないあなたを驚かせたいのってミサカはミサカは乙女モードなの。

「じゃあ!あのね、あのねっ、いってらっしゃいのちゅーして、なーんて……」

きっと、この後にはふざけンじゃねェこのマセガキ、とっとと行って来い!そんな怒った声をミサカは想像していたのに。

ふわり、とミサカの体が傾いたのは、この人がミサカの腕を引っ張ったから。

そのままミサカの体を支えたのはこの人で、顔が、近くなって、きれい、……じゃなくて、やわらかい…じゃなくて……!





ほっぺたに、このひとが、ちゅうしたの……?





まっすぐ見上げても、この人の顔色がまったく変わってない。

ミサカのほっぺたはきっとまっかっかなはずなのに。

「オラ。これで文句ねェだろ。とっとと行け、クソガキ。慌てて転ぶンじゃねェぞ」

「…………」

「迷子になンなよ」

「う、うん……いってきます、って、ミサカはミサカは、ほっぺたをおさえたまま、出て行くの……」

まさか、ほんとうに、ミサカの言葉のまま、あの人がちゅうをしてくれるなんて、ミサカはミサカはこれっぽっちも思っていなかったの。

(一週間はほっぺた、洗えないかも……って、ミサカはミサカは嬉し過ぎてどうしていいか分からなかったり)


今日はミサカがいってきますを言う順番