「いい、お天気だねってミサカはミサカはお外を見ながらあなたに問いかけたり」

勿論音としての答えはないけれど、とくり、と手のひらに響く揺れがそうだねと言ってくれているようで。

「あなたがお外に出てきたら、一緒にお日様を浴びようねってミサカはミサカは約束をするよ」

膨らんだお腹を二回撫でれば、うん!と喜ぶようにとくりが大きくなる。

飽きっぽいミサカが何度も何度も何度も撫でていても飽きないのはあなたと、さらさらの白い綺麗な髪だけなんだよ。

(そういえば今日は早く帰ってくるって言っていたのをミサカはミサカはあの人の言葉を思い出す)

「……迎えにいっちゃおうか、二人で。ミサカはミサカはちょろりと企んじゃったり」

本当は大人しくしていろとネットワークに声が残るほど言われているんだけれど。

(あの人は過保護過ぎるんだにゃー、ってミサカはミサカは金髪のおにいさんの真似をしてみたり)

あの人が過保護なのは、手のひらに在るこの子のためであり、ミサカのためだって分かってる。

だから、ミサカはそんなあの人とこの子のために、部屋に一日中いるんだけど。

(ずーーっとお部屋にいるとやっぱり健康によくないよ、ってミサカはミサカは健康志向になってみたり)

そうだよ、と答えるようにまた揺れたお腹に、にこりと笑って、あの人がそうするようにお腹を撫でる。

「ん、迎えにいこ」

よいしょっ、と膨らんだお腹を両手で持ち上げて、ゆっくりと玄関に向かう。

靴はぺったんこのものを選んで、玄関のドアを開ける。

久しぶりに出た外は暖かくて、あの人から貰った花柄のカーティガン一枚で大丈夫。

転ばないように、ゆっくりと一歩ずつ進んでいく。

(あなたがいなくなったら、あの人もミサカもとても悲しくなっちゃうから)

「やっぱり外はいいね、ってミサカはミサカはあなたにも伝わるようにたくさん空気を吸ってみたり。すー、はー」

優しいあの人はもうパパになっていて、この子がここにいると分かった時マンションの周りの空気を綺麗にする装置を作ってくれた。

研究所のあの人の部屋にはこの子のための物がたくさん置かれているのよってヨシカワが内緒で教えてくれた。

「………ミサカもママになれるかな、ってミサカはミサカはほんの少しだけの不安を吐露してみたり」

ミサカもあの人も、パパとママを知らない、家族を知らない。

ミサカにはたくさんのミサカがいるけれど、やっぱり誰もパパとママって何と聞いても分からない。

この子にとってあの人がパパで、この子にとってミサカがママになる。

「暗くなったら駄目だよね!ってミサカはミサカはむんっと気合を入れてみたり」








「道路のど真ん中でなァにをしてるんだよ、てめェは」








後ろから聞こえてきた声は、間違いなく、あの人のもので。

「アクセラレーター!!なんで、あなたがここにいるのってミサカはミサカは嬉しくなりながら尋ねてみたり!!」

小走りで近付こうとした距離は、使い慣れた杖であっという間に詰めてくれる。

「興奮すんな。ってェか、てめェがなァんでここにいるのか答えるのが先だなァ」

機嫌の悪そうな声は、ミサカがここにいるから、ミサカをこの人が心配しているから。

「ぁ……っとぉ、ちょっと、きれいな空気を吸ってみようかなぁって思ったの、ってミサカはミサカはすーはーしてみたり……」

「っちたァ大人しくしてろよ、てめェは。今が普通の体じゃねェことぐらい分かってるだろォが」

「うん……」

ミサカの嘘なんてすぐにばれちゃって、こつりと一回だけ痛くないチョップされる。

「ごめん、なさいってミサカはミサカは上目遣いで誠心誠意謝ってみたり」

「……ンなに外に出てェなら俺が帰ってくるまで待ってろ」

ぴょこんと跳ねたまま直らない髪の毛ごとぐしゃぐしゃとまぜるのは、恥ずかしい言葉がきちんと聞こえないように。

そんなこの人の照れ隠し。

「うん!」

ほんとはあなたを迎えたくてお外に出たのだけれど、きっとこの人は知っているから、言わない。

「ほら、……帰るぞ」

「ん!!」

ミサカの髪を撫でて、チョップした、大きな手のひらが目の前に差し出される。

今度の目的が何かは尋ねなくても、勿論分かる。

ミサカも同じように腕を伸ばして、手のひらを重ねる。

すぐに守るように手がもっと大きな手に包み込まれる。








ゆっくりと歩きながら、今日はこの子が何回お腹を蹴っ飛ばしたかを話すと、隣で静かに相槌を打ってくれる。

あ!と突然ミサカが大きな声を出すと、なンだよと返してくれる。

「おかえりなさいってミサカはミサカはあなたに二人分の挨拶をしてみる!」

「なンだ、そりゃァ。でけェ声だしたのはそれを思い出したからか」

「うん!!アクセラレーター、おかえりなさい!!」

「……あァ」

一瞬だけ繋がっていた手が離れると、この人の手が膨らんだミサカのお腹にそっと触れた。

それは、二人分のおかえりなさいの、この子へのただいまの代わりなんだって、ミサカはミサカは知っている。


あなたを迎えに行く